キノコ物語
きのこの話へ戻る

感じる気配 物音と気配
普段とは違う音が、森の中に漂う。見上げると、高い梢の隙間から、太陽の光が斜線状に差し込んでいる。時折、バキバキという音や、カランカランという音が聞こえ、それが移動しながら、こちらへ近づいて来るのがわかる。昨日降った雨露が辺りにある葉の上を濡らしていた。サササッと、森の奥へ走りこむ野ネズミの足音が過ぎていく。高い木の枝からは、数種の野鳥の声が響き渡る。その時だった。目の前の光が一瞬だが遮られる。ふと見ると、複数の移動している影。そう、人間の姿だった。森にはいろいろな障害物が存在する。低くは、ササやそれ以外の野草の群落。歩く者にとっては、不具合に感じられる地表の起伏。落ちた枝葉や、大きなものでは、倒木などがある。これらは、すべて障害物となるのだ。
ひょっこりと現れる傘
地上からわずか数センチ、いや数ミリなんて場合がある。雨が降るから差すわけではないが、キノコには、傘があるものがいる。全部に傘があるわけではないということも、知ってほしい。人間の歩幅のまま進むと、小さなキノコは、すぐに見落としてしまう。何かを落として、それを探して歩くようにようにでもしない限り、多くの者を見落としてしまうだろう。そればかりか、気が付かれないうちに、踏みつぶされてしまっているかもしれない。ここを通る人間には、それぞれの目的があるようだ。しかし、今、目の前を歩いている人間の目的は、間違えなくキノコを求めて、森に入った者たちだ。なぜなら、服装と手荷物で、それらを判断することができる。それと、キノコを探す者にも種類があるのを知ってほしい。それは、その人間が特定のキノコだけを採取する者と、多種多様なものを求める者だ。
ひょっこり見えるキノコ
多くの採取者は、ほとんどが特定のキノコを狙ってくる。それには例外もあるが、大概は、それ以外のキノコの知識を持っていないということだ。それは、彼らが好んで食用としていることに留まる。しかし、後者の者たちは、多種多様のキノコを求めて、手当たり次第探すのだ。つまり、その目的は、さらにキノコのことを知りたくて、森に入ったのだ。目的が異なると、探すための観察眼も変わってくる。ひょこりと現れた傘を、ほとんどの場合、見逃すことはない。ヒソヒソと彼らの会話が、森の中に広がる。そう、ここは今、彼ら以外の人間が存在しないから、例えヒソヒソでも、聞こえるのだ。時には、かたまり、時には、散らばってキノコを探す。珍しいものに出会うと、自然に集合するのだ。 キノコ・ハンターたち

目の前にいるキノコ いろいろな形状だけれど。。。
キノコは、よく知っている基本形の傘付きだけじゃない。それがキノコの世界。知らない人にとっては、存在すら理解できない。たとえ目の前にあっても、気が付かないのだ。たぶん、まだ知られていない、あるいは見つけられていない仲間たちは、大勢いるはずだ。広い隠れ家に、巧みに変化している様相から、結果そうなっている。しかも、そのキノコは、本体ではなく、姿を見せたほんのわずかな部分だということを知っているだろうか。実は、胞子からはじまって、木や土に菌糸が広がり、とても想像がつかないほど、大きなものなのだ。キノコはその花部分みたいなもので、そこから再び胞子を放つ。胞子は、風に乗って遥かなた、遠くの地まで移動して、子孫を残し、広い範囲に分布していくのだ。ただ、ひとつ微妙な事柄がある。着地した胞子には、それぞれ特徴があり、条件が整わないと、生息しない。
ほら、ちょっと上を見上げてみて。木の幹の高いところに。地上だけに目をやっていたら、見つけられるものも、見えない。胞子は、風に揺られていろいろな場所に到着するのだ。
秋だけがキノコじゃない。
理解が少ないと、「キノコは秋のもの」と思われがちかもしれない。だが、かれらの種類はとてつもなく多い。その種によって、全然好む生育環境が異なるのだ。早いものだと雪の下(北国の場合)でも、すでに傘を立てている。つまり、雪融けから次の冬まで、いろいろな仲間が現れるのだ。そのことをよく理解して、何度も森に足を踏み入れる人間も少数ではあるが、存在するのだ。また、森にとって、とても大切な役割を請け負っているのがキノコの多くに存在する。それは倒木の分解作業や、木に栄養を供給していること。

見上げればそこに。
森は循環している
私は、そう思うよ。 追及し続けること。
ついに、私たちは、キノコのことを多く知る、長年来の友に出会う。
「やぁー!また来てくれたのかい」
その目線の先には、キノコのことを、より多く知る物知り人間が座っていた。彼は、誰に何を言われようとも、独自の視点で、キノコたちの行方を追い続ける人間だった。
「おっ!?待てよー、これはまだ見たことないな」
と、手を伸ばしてきた。
こうやって、さらに新しい仲間に会うことが出来たのだ。かれは、人間でいうところの指紋みたいな所、「胞子」を顕微鏡によって識別しているらしい。きっと、これからも延々と長い旅が続くのだろう。

HOME

HOME キノコ物語